AIが「不要」と言った手続きが必須だった
2026年9月17日から22日まで、インドのムンバイとナシークにいました(現地5泊6日。帰りは機中泊で、23日の朝に帰国)。この記事は、その旅の連載「ムンバイとナシークの6日間」の1本です(準備の話)。一覧は、記事の下の連載タグからどうぞ。
渡航の2週間前、仕事から帰って、自宅のPCの前でインドのe-Visa(電子ビザ)を申請していました。
分かりやすく書いてくれているサイトを見ながら、事前の準備もしていたんですけど、それでも結構大変で。写真の規定やファイルの容量で何度か弾かれて、ようやく申請が通ったところでした。
今回は、その申請の途中で起きたことの話です。
ビザのほかに、何か要るんだっけ
ビザが取れれば入れる、と思っていたんですけど、調べていくと、ほかにも入国の手続きがあるらしい。名前が出てきたのは2つで、e-Arrival Card(電子の到着カード)と、Air Suvidha(エア・スビダ。到着前の健康状態の申告)でした。
そこで、Gemini(Googleの対話AI)に聞いてみました。返ってきた答えは、どちらも「現在は不要です」。ビザの申請でへとへとになっていたところだったので、その「不要です」をそのまま信じました。
公式の情報を確認したら、どちらも必要でした。しかも、どちらも2026年に入ってから変わったばかりの制度でした。
日付のはっきりしている記録が、ひとつあります。8月31日、私は同行者に「【インド渡航前にやること共有】」という長いまとめを送っていました。e-Visa、e-Arrival Card、Air Suvidha 2.0。3つの手続きが、申請先のURLつきで並んでいます。つまり8月31日の時点で、答えは「3つとも要る」に確定していて、私はそれを同行者に説明する側に回っていました。Geminiに聞いて、公式で確かめたのは、遅くともその日より前だったことになります。Geminiに聞いたのは、e-Visaの申請を進めている途中でした。e-Visaを出し終えて、許可が出たのは9月2日です。
e-Arrival Cardは、2026年4月1日から、外国籍の人は全員、電子での提出が必須になっています。それまで機内で配られていた紙の到着カードは、同じ日に廃止されました。到着の72時間前から登録できて、無料。1人で5人分までまとめて登録できます。出せる場所は3つあって、入国管理局のサイトと、ビザ申請のサイト、「Su-Swagatam」というアプリです。入力するのは名前、国籍、パスポートの情報、連絡先、便名、渡航の目的、インドでの滞在先で、書類や写真の添付は要りません。e-Visaで写真のサイズに苦労したあとだったので、添付が要らないのはありがたかったです。
Air Suvidha 2.0は、2026年6月25日から、国際線でインドに着く人全員に必須になりました。きっかけは、中央アフリカでのエボラ出血熱の流行です。5月17日にWHO(世界保健機関)が緊急事態を宣言して、その約1ヶ月後にインドが水際の申告を再開した、という流れでした。申告するのは過去21日間の渡航歴、流行地域との接点、体調で、まとめて登録はできず1人ずつ入力します。出すと二次元コードが発行されて、到着した空港でそれを見せます。出せるのは出発の72時間前から、渡航が始まる24時間以内までです。
※いずれも2026年9月時点の情報です。制度はよく変わるので、行く前には必ず公式で確認してください。
3つは、出せる時期がそろっていない
必要なものが3つだと分かって、次に困ったのは段取りでした。
e-Visaは、早めに申請しておくものです。私が出したのは9月2日、渡航の2週間ほど前です。残りの2つは、出発が近づかないと出せません。e-Arrival Cardは到着の72時間前から。Air Suvidhaも、出発の72時間前からです。つまり、ビザが取れて「これで準備は終わった」と思ったあとに、もう一度、出発の3日前に机に向かう必要があります。しかも、片方は人数分まとめて出せて、片方は1人ずつ。
「渡航前にやること」を1枚のリストにして、上から順に消していく、というやり方が通じないんですよね。3つのうち2つは、消せるようになる日が先にある。なので、出せるようになる日を、忘れないように控えておきました。「不要です」を信じていたら、この出発3日前の予定そのものが、存在しなかったことになります。
「不要です」は、少し前までは合っていた
調べていて分かったのは、Geminiの答えが、でたらめだったわけではなさそうだ、ということです。
Air Suvidhaは、もともとコロナ禍のときに作られた仕組みでした。それが落ち着いて、いったん終わっていたんです。そこにエボラの流行があって、「2.0」として戻ってきた。つまり、「Air Suvidhaは現在は不要です」という文は、少し前までは正しかったことになります。e-Arrival Cardも同じで、4月より前は紙のカードがあって、電子での提出は必須ではありませんでした。
どちらも、「不要だった時期」のほうが長いんですよね。世の中にある文章も、不要だった時期に書かれたもののほうが、ずっと多いはずです。4月と6月に変わったばかりの制度について、変わって数か月のうちに聞いたら、古いほうの答えが返ってきた。そう考えると、起きたことはわりと素直に説明がつきます。間違えた、というより、時間がずれていた。私にはそう見えました。ただ、必須だと分かったそのときは、ちゃんとしてくれよ、と思いました。
「ない」は確かめにくい
あとから考えて、引っかかっているのはここです。
「必要です」と言われたら、どこで申請するのかを探すので、たぶん自然に公式にたどり着きます。e-Visaがそうでした。申請するには公式のサイトに行くしかないので、行けば、そこに書いてあることを読むことになる。でも「不要です」と言われたら、そこで調べるのをやめてしまう。何もしなくていい、という答えには、確かめに行くきっかけがありません。行く先がないんですよね。
もうひとつ厄介なのは、制度のページを開いても、「この制度は廃止されていません」とは書いていないことです。ページがある、というだけでは、いま生きている制度なのかどうか分からない。今回も、ページを開いて、日付を見て、「いつから義務化されたか」を読むところまでやって、ようやく必須だと分かりました。
肯定の答えには、裏を取る入り口がついてくる。否定の答えには、ついてこない。聞いた相手がAIでも、人でも、古いブログでも、たぶん同じことが起きます。
どこまで疑えばいいのか
もし見に行っていなかったら、ムンバイの空港で何が起きていたのかは、分かりません。読んだ範囲では、e-Arrival Cardのほうは、出していなくても入国を断られるわけではなくて、入国審査で追加の確認が入って時間がかかる、と説明されていました。Air Suvidhaのほうは、もっと手前で止まるようです。出していないと、航空会社が搭乗させない、と書かれていました。つまり、成田のカウンターで止まっていた可能性があります。友人と2人で出発する朝に、カウンターで「この申告が済んでいません」と言われる。なんだよ。ちゃんと準備してきたのに。たぶん、そう思っていたはずです。
実際には、出発前に気づけたので、何も起きませんでした。何も起きなかったので、こうして落ち着いて書けています。空港で気づいていたら、たぶん、こういう文章にはなっていません。
じゃあ、毎回ぜんぶを公式で確かめるのかと言われると、それも違う気がしていて。「要らない」と言われたものを全部調べ直すなら、最初から聞いていないのと同じです。楽になった分を、そのまま返すことになる。いまのところ、自分に出した約束はひとつだけです。「要らない」と言われたものは、要らないと言っている側の説明ではなくて、その制度そのもののページを開いて、日付を見る。
ただ、これをいつも守れるとは思っていません。今回は「入国できないかもしれない」という、失敗したときに取り返しがつかない話だったから、見に行ったんだと思います。このあとも、やっぱり鵜呑みにしちゃっていたんですけど、ファクトチェックしたほうが安全だと思って、してみました。
ちなみに、このあとAIを使うのをやめたわけではありません。9月14日に入国まわりのフォームを入力したときも、列車を予約したときも、画面のスクリーンショットを別のAI(ChatGPT)に見せながら、欄をひとつずつ確かめています。本当かなと思ったので、念のためセカンドオピニオン的に、ChatGPTを使ったまでです。
結局
e-Arrival CardとAir Suvidhaは、出発が近づいてから、それぞれ登録しました。8月31日のまとめには「②③は出発直前(9/14〜16頃)にまとめてやるのが効率的」と自分で書いているので、予定としてはその3日間です。書類で確かめると、e-Arrival Cardの私の分は、その初日の9月14日18時56分(日本時間)に発行されていました。到着の3日前です。Air Suvidhaも、同じ9月14日に出しました。Air Suvidhaは仕組みとして1人ずつの申告です。e-Arrival Cardは同行者の分もまとめて出したと思いますが、はっきり覚えていません。
e-Visaの控えは、印刷してカバンに入れていきました。入国審査で実際に何を見せたのかは、記憶があいまいです。
インドの入国に必要なものは、2026年9月の時点で3つでした。ただ、そのうち2つは今年に入ってから変わったものなので、来年も3つかどうかは分かりません。次にどこかの国に行くときも、たぶん私は、まずAIに聞くと思います。そのあとで、もう一度だけ自分で見に行くかどうか。そこは、そのときになってみないと分かりません。
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